最近では珪藻土を使った南欧風住宅の新築戸数は、ひと頃より随分減ってきたと思いますが、かつては全国的に流行した様式です。今でも幅広い年齢層に人気のある住宅スタイルです。
「珪藻土は、カビたりヒビが入る建材なのでしょうか」というご質問にもあるように、珪藻土にはカビやヒビが生じると思われていることも、新築戸数が減少した理由の一つではないでしょうか。しかし、珪藻土に限らず、防カビ性能を謳う塗り壁材であっても、カビというものは、一定の条件が揃うと発生するものです。
まず、カビが発生するメカニズムを簡単に説明すると、カビの元となる胞子と呼ばれる原因菌は目に見えませんが、どこにでも無数に存在して常に私たちの周りを漂っています。そこに適当な水分(湿気)や温度、栄養、酸素などの条件が整うと一気に生育(繁殖)します。その結果、私たちの目に見えるカビとなって姿を現すというわけです。
天然素材の塗り壁の代表格である珪藻土や漆喰には、本来、湿気を吸ったり吐いたりする「吸放湿性能」(または調湿作用)と言われる特徴があります。この特徴から、珪藻土や漆喰がカビの栄養源である湿気を吸ってくれるのでカビの発生を抑制すると謳われることが多いのです。実際、これは正しいことです。
しかし、ここで問題になってくるのは、その作用を活かした使い方をしているかどうかということです。(調湿作用と自然素材の関係については、以前の放送でも詳しくお話しています。)
珪藻土や漆喰は湿気を吸ってくれますが、重要なのはそれを今度は吐き出さなくてはいけないという事です。
実は住環境には、ある程度は湿気(水分)がないといけません。水を含んだ物質(僕らの身体もそうですが)は比熱が高いため、温度変化に強いからです。ただし、湿気が常にあって吐くことができないなど、吸いっぱなしだと当然困るわけです。以前の放送で立地選びがテーマの時にも「水はけ・風通しが大切です」というお話しをしています。住宅にとって、湿気は必ずしも敵ではなく「水はけが良い」ことが大事というのは、水があるけども滞留しないということです。
実は湿気(水分)がない、乾燥して砂漠みたいになるのは住環境として結構困るのです。水分が全くないと比熱が低くなる為、温度変化が急激になってしまい、逆に少しの湿気でも結露を起こしやすくなります。水が入ってきても、水はけが良くて風通しが良ければいいわけです。この調湿作用がきちんと働いていれば、まずカビが生えることはありません。
これだけ雨の多い日本で、湿気対策というのは、完全に湿気を排除するのではなく、いかに建材に吸ったり吐いたり調節してもらうかということが大変重要になってきます。それができる、得意な建材というのが、自然素材なのです。
珪藻土に限らず、吸った湿気を吐き出すことができないような建材の使いかたをしていたり、またはそういった環境に住宅があるということは、カビの原因になるわけです。しかし、カビだけが生えるのであれば、じつは大した問題ではありません。湿気を吐き出せず常に湿気を含んでいると、その結果として建材が腐りやすくなるとか、建物を劣化させていってしまうのが問題なのです。
現状で日本は雨が多い国であるにも関わらず、建材が吸った湿気を吐きだすことのできないような使い方をしている住宅が大変多く、その場合に、珪藻土や漆喰なのに(調湿作用のある自然素材なのに)、カビが生えてしまうといった結果になってしまいます。自然素材を内装材に使おうが外装材に使おうが、こういった「良い」と言われている建材の良さ、メリットが全く活かせていない住宅が大変多いのが今の建築業界の大きな問題となっています。
さて、外国風の住宅や輸入住宅の中でも、日本でも人気の高い南欧風住宅について少しお話しをしたいと思います。南欧風住宅とは、地中海のリゾート地によく見られる家をイメージして造られた住宅です。プロヴァンス風住宅とかスパニッシュ住宅とか、業者によって色々名前があります。
地中海沿岸では、夏の強い日差しを軽減するために白い壁と素焼きの瓦屋根を取り入れる家が多いのが特徴となっています。南欧で多いのは漆喰仕上げの外壁の家です。日本で建てられる南欧風住宅の外壁には珪藻土と漆喰壁、はたまたサイディングが使われることもあります。
日本は夏と冬の寒暖差があり、雨が多いという特徴がありますが、地中海沿岸は温暖な冬と、暑くて乾燥した夏という気候の土地です。地中海沿岸の平均的な年間降水量は600_前後で、日本の年間降水量1718_の半分以下です。強い日差しに対する工夫はされていますが、雨仕舞や湿気などに対する工夫はもともと殆どされていない住宅であるということを念頭に置いておく必要があります。
日本に長く根付いてきた和風の住宅と、南欧風住宅の写真とを見比べてみると、まぁ何から何まで違うのですが、一番の違いは、軒の出の深さではないかと思います。
南欧風住宅には軒の出が殆どないか、あっても非常に小さい(浅い)。それに比べて伝統的な和風の住宅では、軒の出が大きい(深い)のが特徴です。
南欧風住宅は、雨が少なく乾燥した土地の住宅のため、もともとが軒の出の小さい(浅い)デザインとなっています。地中海沿岸の人々は、この住宅で何も困らないのですが、雨の多い日本に持ち込んだ場合は、本場の地中海では見られなかった日本ならではの不具合、劣化などが当然の結果として出てくるわけです。珪藻土の外壁に雨が長時間あたり、また北側などはそれが乾きにくくいつまでもジメジメしていることからカビやヒビ割れが発生しやすくなってしまうのです。
そういう軒の出が小さいお宅に限って新築から数年もたたず雨漏りなどでご相談に来られるという残念な状況が近年続いています。以前は、雨漏りといえば老朽化した住宅の屋根から漏るものでした。それが近年、サイディング壁の普及により、早い方で築8年目くらいで壁面から雨漏りするケースが増えてきましたが、最近では築3年目くらいでも雨漏りのご相談に来られる方がいます。これは南欧風住宅に限らず、軒の出の小さい住宅が流行してきた為と考えています。
軒の出と雨漏りの関係については、次回詳しくお話していきたいと思います。
話しを珪藻土に戻して、もう一ついただいているご質問をご紹介します。
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▲ヒビ割れにお困りの珪藻土の住宅 |
Q.自宅の外壁が珪藻土です。新築してまだ10年くらいなのに、ヒビ割れに困っています。新築した業者に補修を依頼してもなかなか対応してくれない上に、やっと補修してもらったと思ったら、数年たたずにまたヒビ割れてしまいました。どうしたらヒビ割れしないようになりますか?
珪藻土の「ヒビ割れ」には、2つの要因があると考えられます。
@施工段階での水分不足があります。
珪藻土はそれ自体では壁や天井に塗ることはできません。水を加えることで珪藻土に粘りを付けてから施工します。この時に加える水分が不足していると表面乾燥が早くなり、乾燥収縮によるヒビ割れが発生しやすくなります。
(ただしリフォームなどのDIYで一般の人が行う場合にはこの現象は起きますが、きちんとした左官屋さんが行えばまずないと考えてよいと思います。)
A下地が動くことによるヒビ割れがあります。
これが最も多いパターンではないかと考えられます。つまり珪藻土を塗る下地の石膏ボードや間柱、塗り壁用サイディングの目地などが動くことによるヒビ割れです。地震や何かの衝撃で動くことも考えられますし、サッシやドアなどの開口部周りの開け閉めによる動きも考えられます。
ただしこれらのヒビ割れは、下地づくりの際に少しだけ手間を掛けてあげれば大きくヒビ割れるという事はありません。この手間を怠っている場合に、大きなヒビ割れとなっているのです。ですから、珪藻土がヒビ割れしやすい建材というより、施工不良によるヒビ割れが起きやすい建材であると言うことができます。
珪藻土の外壁は、本来ならモルタルを下地に塗り、仕上げに珪藻土を塗るというのが通常の施工方法です。しかし現在ではコストカットを理由に、左官の要らない塗り壁用のサイディングに、仕上げに珪藻土を塗るという工法が主流となっています。この場合、珪藻土は弾性がなくヒビ割れしやすいため、サイディングの目地には段差をなくす処置をする必要があります。しかし、サイディングの目地にきちんと処置をしている業者は殆どおらず、その為に目地からヒビ割れが生じてしまうというケースが大変多いのです。
更に、時折、この塗り壁用のサイディングですらなく、ただのボードに仕上げの珪藻土を塗っているという住宅に出会うことがあります。このご質問のケースも同様で、調べてみるとボードの継ぎ目の至る所で大きな亀裂が生じていました。下地のボードが、簡単に動くためです。これは正直言うと「欠陥住宅」と言い切っても決して言い過ぎではないような状態でした。これがレアケースでなく、結構多いというのは、残念の一言に尽きます。
今すでに珪藻土のヒビ割れにお困りというご質問者さんの家は、どういう施工をされているのかは現地調査で見てみないことにはわかりませんが、恐らく塗り壁用のサイディングに仕上げに珪藻土を塗っており、目地の処理がきちんとされていないというケースの可能性が高いのではないかと思います。なぜなら、現状では珪藻土の外壁というとこの施工方法が主流となってしまっているからです。
この場合の対処についてですが、現地調査してみないことにはわかりませんが、調査した結果、何の方策もないという場合があるので注意が必要です。または、苦肉の策で、せいぜい応急処置をしていくしかないという場合もあります。
恐ろしいことに、住宅というのは、もともとの施工方法が致命的に間違っている場合、いくらメンテナンスをしても根本的な解決が見込めないということがあるのです。
新築を建てられる時にはデザインだけを考えるのではなく、長持ちさせる為の有効なメンテナンスの方法なども、新築業者にきちんと聞いておくことをおすすめします。 |