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▲シートを撤去すると、側面は浸水によりボロボロに劣化していました。 |
ビルのメンテナンスで一番のポイントは、「鉄筋をサビから守る」という事です。鉄筋コンクリートの強度は、鉄筋とコンクリートの組み合わせで保たれています。雨水などの浸入が原因で鉄筋が錆びると、錆びた鉄筋は膨張して、コンクリートにヒビ割れが生じてしまいます。そのヒビ割れからコンクリート内部に水が入り、更に鉄筋を錆びさせる…という劣化への加速的な悪循環が発生してしまうのです。そもそも日本の高温多湿な気候風土に鉄筋コンクリート住宅が合っているのかという疑問を感じざるを得ません。
サビの原因は水と空気なので、鉄筋をカバーしている外壁や水の浸入口となる屋上防水を定期的にメンテナンスすることが、ビルにとって大切な事になるかと思います。ただ、間違った防水をいくらしても、費用だけが無駄にかかり、防水機能は全く果たせていないというケースも多く、注意が必要です。
ビルの屋上は、一般住宅の傾斜のある屋根と違って、最上階は平面になっているので、雨が降ればそこに水が溜まってしまいます。その雨水から建物を守る目的で、屋上には新築時に防水工事が施されています。このビルの屋上防水に関しては、雨漏りという事態になる以前に、雨漏りまではしていないけど、屋上の防水面がちょっと大変なことになっているというケースが結構多いのですね。下の階への雨漏りという形で表れていなくても、防水機能が働いておらず、ビルそのもの、建物の構造体にも影響が生じかねないというケースです。ではなぜ防水機能が働いていないのか、防水工事とはどのような工事なのかという事を考えてみましょう。
まず、防水工事の種類ですが、以前多くのビルで使用されてきたアスファルト防水は、防水性が低いため、現在はシート防水と塗膜防水が主流となっています。しかしまだアスファルト防水も時々施工されているのを見かけます。
公共工事でも使用されているという事で多くの防水業者が施工しているシート防水は、防水工事としては致命的で、改善しようのない欠点があり、当社では絶対にやりたくない防水工事です。
シート防水とは、複数枚のシートを敷き詰めて接合して防水層をつくる防水方法ですが、このシート防水の一番の欠点は、シート同士に継ぎ目が出来てしまうという点です。接合部(シート同士のつなぎ目)や取り合い、また最後の仕舞い部分から浸水しやすいという大きな欠点があります。継ぎ目となるシートの仕舞いの部分は接着剤で接着してアルミアングルで固定されているのですが、ここから水が簡単に入るのです。シート内に入った水は太陽熱で温められ、100度を超えると水蒸気となり膨張してしまいます。シートには接合部分がたくさんあります。その接合部分から水が入りやすいという事も問題ですが、更に膨れる事によって接合部分が切れてしまうのですね。
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▲シート防水の継ぎ目が破れ、水が溜まり苔が生えています。 |
一度シートの下に水が入り込んでしまうと、シートの下は陽が当たらない為に、浸入した雨水が乾きにくく、下地やシートの接着面を傷め続ける事になります。厚いシートの下は陽も当らなければ風も吹き抜けませんので、水はずっと滞留し、下地であるコンクリートは常に湿った状態となります。シートがあるせいで、晴れても乾かないのです。劣化したシート防水の屋上を歩くと、浮いたシートの下に水があり、ジャブジャブと音がします。何日も雨が降っておらず、天気の良い日が続いていても、屋上には水たまりが至る所にあり、あちこちに苔が生えている様な現場をよく見かけます。これではシートが無い方がまだよかった、という事態になっています。
結果、下地の劣化や接着面の劣化によるシートの剥がれ等を引き起こし、建物本体の傷みにつながってしまうのです。継ぎ目の有無は防水工事において、防水性能、耐用年数などに直結する大きな要素といえます。それがシート防水の大きな欠点なのですね。3年から5年で浸水しているケースというのがものすごく多いのです。
★久長アナ「随分短い寿命ですね。」
公共工事でやっているから、新築でどこの会社もやっているから、という理由が、必ずしもその工法を使う理由にはならないという事を肝に銘じなければいけません。現在主流となっているからといって有効な工法とは限らないのです。
シート防水が一般的にも公共工事でも採用されている理由を正直に言うと、施工が楽であることが大きく、業者側の理由でしかありません。公共工事で使用されているという事が、シート防水を使う大きな理由になるのかということを、僕ら技術者や専門家と名乗る者は、実際に現場を見ながらきちんと考えなければいけません。
★久長アナ「では、小原社長、北斗建装ではどういった防水をされるのでしょうか?」
当社では塗膜防水という防水方法を採用しています。これも他の工法と同様に30〜40年前からありますが、一番大きな利点はシート防水のような継ぎ目が生じないことです。
塗膜防水とは、硬化する液体を防水面に流し、4重、5重、6重に塗膜を重ねて、継ぎ目のないシートで覆うような防水方法で、シート防水と違って複雑な形状にも対応できます。現場の程度によって塗膜の重ねを何層にするかを変えて施工します。塗膜を継ぎ目のないシートを張った様な状態にし、雨水の排水口を作ります。水が建物内部に入らないよう、水の通り道をきちんと計画的に作り、塗膜でしっかりとした防水層を作るという工法で、ビルや一般住宅ではこれからの主流の防水となってくるでしょう。というより主流にならないとおかしいですね。
しかし残念ながら、いまだにシート防水が主流となっているのが現状なのです。僕らは多い時で一週間に5〜6件、シート防水の中に水がじゃぶじゃぶ溜まっている様な現場を調査しているのです。
★久長アナ「と言うことは、こういった防水にお困りの質問は、比較的多いのでしょうか?」
そうですね。シート防水は、調査の依頼も、お困りの質問も大変多いです。問題が多いのに、屋上防水にはシート防水が施工されているケースが、圧倒的に多いのです。防水工事は、業者がお客様に選択肢を提示する事は非常に少なく、業者が決めた工法をろくな説明もなくそのまま施工する事が多いというのも、シート防水が主流である理由の一つだと思います。
お客様が頻繁に屋上にあがれるような場所だとこのような僕らの話もわかりやすいのですが、配管屋さんが上がって初めて屋上がプールのようになっていた事を知ったとか、あまり普段から上がらない屋上の場合、深刻な状況にお客様が気づいていないという事もあります。
別の工事でたまたま屋上に業者が上がって気づく。どうかしたら、雨漏りなど最悪の状況になるまで気づかないという事もあります。そこで調査してシート防水の欠点や劣化の状況などお伝えすると、大抵の方が大変驚かれます。「え?だってちゃんとした業者さんがしてくれたよ?」と。「ちゃんとした業者」に見える業者がいかにあてにならないかというのは、もうこのラジオを何度か聞いて下さった方は、ご理解いただいているかと思います。
ビルをお持ちの方は、メンテナンスという意味でも、ご自分のビルの点検は業者まかせにせず、定期的にご自分の目で見て回るという事を、習慣にしていただく事をおすすめします。持ち主の方の意識ひとつで、大切な財産であるビルの耐用年数が大きく変わっていくと言っても過言ではないのです。
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