無垢の木を使って日本の伝統的な木造住宅を建てる際、出来る限り国産材を使って建てられたら、最高ですね。それが可能ならいうことはありません。輸入木材には輸送中、虫がわかないように大量の薬剤が散布されているとか、国産材はこの国の気候に合っている点とか、国産材の方をお勧めする理由は数えきれない程あります。
日本には資源が少ないなどと言われていますが、実は森林大国です。国土の67%が森林で、森林率(国土面積に占める森林面積の割合)ではフィンランド、スウェーデンに次いで世界第3位です。しかし、日本では、木材の大半を外国からの輸入に頼っており、世界の3分の1の木材を輸入しているというのですから驚きです。世界の人口のたった2パーセントしか住んでいない日本人がそれだけの木材を他国から輸入しているのです。諸外国では、「日本人は国内の森林資源を温存して、海外の森を荒らしている」という人もいます。海外の森林を荒らして環境破壊をしているのは事実ですが、国内の森林を温存しているわけではありません。温存ではなく、放置している状態です。
そんなに輸入したいほど、海外からの輸入木材の質が良い、素晴らしいのかというとそういうわけではありません。長い輸送の期間、腐らないように防腐剤を、虫がわかないよう防虫剤を大量に散布・注入しており、木材を使うメリットである「自然素材」の利点より毒性の方が高くなってしまっているものもあります。
ではなぜ、わざわざ遠い外国から輸送費をかけて輸入するのかというと、海外の木材を輸入するほうが安いというとんでもない理由ですね。国内の森林を管理し、木材を供給するより、他国の森林を伐採して得た木材の方が安くつくということで、国内の森林は植林されたまま長い間放置されているのです。
戦後、日本の国土の多くが焼野原になり住宅が不足した時代もあり、また高度経済成長期には空前の住宅建設ラッシュが訪れた時に、木材が不足して慌てて多くの自然な山、豊かな原生林や天然林が伐採されて人工林にされました。この頃、天然林を伐採した跡などにスギやヒノキ、カラマツを植栽する「拡大造林」が農林水産省等により奨励されました。
しかしその後、輸入制限が緩和されて海外から安い輸入木材が市場に入るようになると、木材価格は暴落しました。10年単位で管理・手入れのいる人工林は採算が合わなくなり、多くの人工林が放置されることとなり現在に至っています。
檜や杉が繁っている放置された人工林に入ると、太っている木がある一方で、既に弱っている木、根の張りが広がることができず根だおれを起こしている木がたくさんあります。定期的な間引きや枝打ちをされていないために、密集して高く細く伸びた人工林には、地面には光が全く入らず、草一本生えておりません。地表はつまようじを刺しても一ミリも刺さらないくらいカチカチに固いのです。
このように現在、日本の人工林は、『緑の砂漠』と呼ばれる状態となっています。(遠目には緑に覆われているものの、実態は生物多様性という面で非常に乏しい森林となってしまっている。)
本来、下草や木には地面を耕す働きがあるのですが、50年ほどで伐採される予定で狭い間隔に大量に植えられたのちに放置された人工林は、地面を耕すどころか、土の栄養分を奪い合っています。狭い間隔に苗木をたくさん植えると、木がまっすぐ育つため、木材利用のための植林は、間伐することを前提に、たくさんの苗木を植えるのです。しかし、先にも述べた通り安い輸入木材に木材の供給を頼ることとなり、人工林の間伐がまともに行われなくなっています。
人工林の放置は、様々な問題を引き起こします。
○生態系の破壊 先ほどに述べた緑の砂漠状態になった人工林は、草や木の実、小動物など生物多様性が低い為に、野生動物の餌がなく人里に下りてくる主な原因のひとつとも言われています。
○健康被害 これは、私自身悩まされている健康被害ですが、手入れのなされていない人工林から発生する大量の花粉が花粉症の原因として問題になっています。
○他国の森林破壊 外国の豊かな森林、原生林や天然林をものすごいスピードで破壊しています。切ったら切りっぱなしの、食いつぶす行為です。自国の森林は放置してこちらもゆるやかに環境破壊されています。
○土砂災害 人工林では苗木の植え付け時に直根を切るそうです。植え付け作業が楽になり、また細根が増え、苗の定着率が高くなると言われている為です。本来、スギは直根を伸ばすのですが、土砂災害で根こそぎ倒れたスギに直根は見当たりません。下草がなく治水能力が低くなった土壌に、直根のない同じ樹齢のスギやヒノキが密集して植えられている人工林は、豪雨の際、土砂や流水とともにあっという間に倒れます。直根がしっかり伸びていれば、土砂が流れても風が吹いても木はしなり、立っていられるのです。
2017年の豪雨災害でも、土砂とともに流れてきた木は、細くまっすぐに伸びた、植林されたスギやヒノキばかりでした。原生林や天然林ではあのような災害は起こらないのです。
≪新築を建てることと木材を育てること、山を守ることは繋がっている≫
木は生育した年数だけ、伐採したあとの寿命がもつと言われています。50年の樹齢の木は、伐採されて木材になったあと50年建材として生きることができます。日本で最古の木造建築物であり、また世界最古の木造建築物でもある法隆寺のように1000年の樹齢の檜を使えば、1000年もつ建築物となるわけです。(数百年単位で大改修を行っていますが、1300年もの間美しい姿を保っています。)
一般の住宅に樹齢1000年の木材を使うことは現実的ではありませんが、長もちする住宅を建てるなら、せめて100年以上の樹齢をもつ木材を使用したいものです。そのためには、100年、200年、木を育てて、建てた住宅は長くもつように修繕しながら大切に住み継ぐ。そうすればその間にまた木を育てることができるわけです。
人間の寿命を超えた期間の管理が必要ですから、国家単位での管理・生育が必要な事業です。しかし日本は明らかに林業が破綻しているにも関わらず、残念ながら有効な策を国家が打ち出してはいません。
家を建てて長もちさせることと、木を育て山を守ることは、里の集落、ひとびとの命や暮らし、次世代の命を守ることにもつながっており、決してそれぞれを分業させてはならないのです。
短い寿命の家を建ててしまえば、すぐに次の新築を建てなければならない。木材を育てる期間をもつこともできません。新築を大量生産したい、新築を商品経済にのせた建築業界は、それでよいのかもしれませんが、新築住宅のようなエネルギーを多大に使ってできる建築物を使い捨てのようにすることは、とんでもない環境破壊となります。
長持ちしない、すぐに解体するような家を建てる新築業者に、家を建ててほしいとは私は思いません。しかし、現実には、新築業者、大手ハウスメーカーも含めて、そのような家を大量生産する時代が日本では長く続いております。新築を生業とするものは、木の育成、山林のあるべき姿から考えねばならないのです。
当社が新築を建てる場合は、自然素材を有効に使った家を建てるのは言うまでもありません。しかし、そこに古い家があった場合は、修繕して住みやすくすることができないかどうかをまず考えます。まだ使える家を簡単に取り壊して、新しい家を建てればよいという風潮は、大変な環境破壊となるからです。
また、新築するにしろリフォームするにしろ、数年したらすぐにメンテナンスが必要になるような家にはならないような修繕計画を立てます。住宅に携わるものとして、住宅の寿命を延ばすことが最大の役割であり存在意義であるといってもよいと考えております。
我々、新築や住宅に携わる人間は、これまでの建築業界の在り方を大きく転換しなければならない時期に来ている、いいえ、とうにその時期を過ぎてしまっているのかもしれません。
良い木材を使い、健康に良くないと思われる建材を極力使用しないで建てた木造の家というのは、違いが五感でわかるものです。室内の空気が大変清涼で、木の香りは精神が落ち着き、木の持つ調湿作用が四季折々の暑い日、雨の降る日、寒い日に作用していることを、暮らしの中で感じることが出来ると思います。もちろん、使用する木材は、国産のものを選びたいものです。日本で建てる家には、日本で育った木が、日本の気候に適していることはいうまでもありません。
※参考資料…林野庁ホームページ
全国森林組合連合「間伐 日本の森を再生させる為に」
NPO法人 森の蘇り「日本の森は今」 |