地震などの自然災害の後や、また災害直後だけでなくTVなどのメディアでそういった特集番組が放送された後、訪問販売業者が熱心に営業にまわる傾向があるので、注意が必要です。
日本は地震大国、火山大国ですが、2016年春には熊本・大分を震源として九州が大地震に見舞われました。被災された方々には心からお見舞い申し上げます。
僕の家も別府市内では比較的揺れの激しい地域だったので、随分怖い思いをしました。家の中はかなりぐちゃぐちゃになりました。地震というのは、本当に心底怖いですね。ペットなどの動物も、何かを感じて大変怖がります。自然の驚異の前では、人間は為す術がないということを目の当たりにさせられます。また、日本に住んでいる以上避けられない事かもしれませんので、平素から災害に対する備えや心構えをしておくのが重要かと思います。
実際に災害にあった場合は何はなくとも、とにかくまずは命、身の安全を守る行動をしなければなりません。その後で、住宅の被害であるとか、周りの被害状況などに目を配る余裕がでてきてからの話です。
今回の地震で住宅に被害のあった方から、たくさんのご相談をいただきました。そんな中で、ちょっと気になることがあります。気をつけてほしいなと思うのが、地震の被害の多かった地域に出没する、業者ともいえないような、業者を名乗る者です。親切なボランティアなのか、営利目的なのかよくわからない人が声をかけてきます。瓦が落ちている家に行って、応急処置をしてあげると申し出てとりあえずブルーシートをかけていく、処置にもならないようなことをして2〜3万円請求する。または、応急処置をしたことをきっかけに、葺き替えをしてあげましょうといって、通常の葺き替えの値段よりはるかに高い工事代金を請求するがまともな施工ではないなど、色々な被害の報告があります。
いったん応急処置をしてもらうと、普通の人は、応急処置してもらったから、他の会社に頼むのは申し訳ない、と思ってしまうことが多いようです。更に、地震で揺れたあとなどは、とにかく早く修繕しないと、また次の揺れが来たら危ないのではないか、といった恐怖感やあせりなどもあります。そういった心理状態のせいか、よく考えずに慌てて施工を頼んでしまう人が多いようです。
今回、県内で比較的被害の多かった別府・湯布院などの地域では、普段屋根の施工などほとんどした事がないような業者が、あちこちの屋根に上がっている様子を見かけました。電気屋さんや、なんでも屋さん、お掃除屋さんといった顔ぶれまで見かけました。なにもお客を騙そうという悪意がなくとも、実績のない会社が出来もしない工事を請け負うということには、もう少し慎重になってほしいと思います。
普段から屋根の葺き替えをしている業者は、しっかりと流通のルートを持っていますから、被害が重なってしまった非常事態にも材料の入荷にそこまで待たされるということはありません。当社も、普段より少し入荷に時間がかかるかなという程度で済みました。しかし普段、屋根の施工をしたことのない業者は、瓦メーカーとのもともとのつながりも当然ないわけです。そのような業者が災害後の注文の混み合った時期に瓦メーカーに注文したところで、取り合ってもらえないのですね。ですから「現在、瓦の入荷が2ヶ月待ちです」などと言っている業者というのは、今まで葺き替えなどの施工実績のない業者と思って間違いないと思います。
施工実績がないなら、せめて素人価格というか、実績豊富な会社より工事代金が安いかというと、全くそんなことはなく、我々からすると考えられない、驚くような金額設定にしている事の方が多いようです。普段屋根の工事などしていない業者が、いとも簡単に仕事が取れてしまうという非常事態に、大変危惧しております。
これは実際に先日の地震被害による話ですが、ある業者が、応急処置と称して屋根から落ちそうな瓦を下ろして、「瓦は2ヶ月待ちですから、とりあえずこれをかけておきましょう」といってブルーシートをかけたと。それで8万円請求されたというケースがありました。
一人暮らしの高齢の女性のお宅で、近所の方もたびたび気にかけておられたそうなのですが、昼間おひとりの時に、ポッと来られた業者に、そのような施工ともいえない処置をされたそうです。2ヶ月後、ほんとうにその業者が来るのかどうかは怪しいものですが、仮に来たとしてもその業者に葺き替えてもらうのは、全くお勧めできません。
リフォームや、塗装など建築工事の代金は、材料と手間賃で構成されているということは以前の放送でもお話ししたと思います。このお宅の場合、屋根にかけたブルーシートが何枚要ったかは知りませんが、半日かかったとしても、せいぜい手間賃込みで1万円も請求すれば順当な利益がでるはずです。
彼ら、業者というか悪い人ほど、被災した人間の心理をわかっていて、一番弱っているところに行くのですね、残念な事ですが。
とにかく契約をとりたいがしかし施工力が不足している会社、というのであればまだマシな方かもしれません。こういった災害直後を狙って出回る業者にはもう少し悪質な業者もいます。施工力など無いに等しいインチキな業者が騒ぎに便乗してやってくるというのが昔からありますので注意が必要です。
非常時には、人と人の助け合いがあり、普段顔も知らない隣人が助けてくれたり、通りすがりの人が手を差し伸べてくれたり、人の温かさや優しさに救われる出来事も沢山あります。しかし、その全く逆のことも残念ですが、現実に起こります。そのような被害に遭わないためにも、非常時にはそういった事があるのだと知っておいて、充分気をつけていただきたいと思います。
まず、まともな業者であれば不安や危機感を煽った営業手法はとりません。このような訪問販売業者や悪徳業者のなにが問題かというと、ノウハウも無いのに屋根にあがって逆に屋根材を傷めてしまったり、耐震や修繕の知識もないのに、補強金具などを意味のない場所に取り付けて耐震補強をしたとして高い工事代金を請求することです。高くても、きちんとした耐震補強をしてくれていれば、まだましです。不当工事の場合、まったく耐震性能があがっていない、又は修繕できていないのに、お客様は耐震性能があがった、修繕できたと思わされて安心してしまうので、かえって大変危険です。
最悪の場合、お金をだまし取られるだけでなく、さわってはいけない構造をへたにさわり、工事前より住宅の性能や耐震性能が下がってしまうケースもあります。そういったことがわかった頃にはその業者はあとかたもなく消えていることもあります。
我々が見積もりの依頼をいただいた場合は、まず無料で現地調査をさせていただき、住宅の築年数や、建てられた工法、構造、劣化、地震による被害、地盤の状況などを総合的に診断して、その住宅に必要な修繕を考えていきます。予算との兼ね合いもあるので、優先順位をつけてご提案するようにつとめています。
今回の地震の影響で、「壁に亀裂が入った、瓦が落ちた、屋根の棟が破損した、今回は無事だったが次の地震でもつかどうか」などさまざまなご相談をいただき、順番に対応させていただいている所です。被害が大きかったため、お困りになる方もいっぺんに出てしまっています。そのため、修繕や耐震補強の見積もりや工事は混み合っている状況です。(2016年5月放送時点)しかし、いただいたご相談を先着順にやっているわけではなく、当社では緊急度の高いと判断した方から優先的に対応しております。(これは早急になんとかしないと危ない、とか。早急に対応しないとのちのち大変なことになる、とか。次の雨で激しく雨漏りする可能性がある、等々)災害の後にはそういった現状を的確に判断して臨機応変な対応をしないといけないわけです。その判断や対応も、結局のところきちんとした施工力のある会社でないとまともにできません。優先順位の付け方を間違ってしまう、又は緊急度を見誤ってしまう、ということになってしまいます。
久長アナ:耐震補強をする際、色々な工事が考えられるかと思うのですが、今はどういった耐震補強の工事が一般的というか、多いのでしょうか?
耐震補強とひとくちにいっても、もちろんその住宅によってなにが有効か、どこを補修するべきかがそれぞれ違ううえに、施主さんの予算も違うので、どこまでやれるかというのがそれぞれ違います。その為、どのくらいまでお金をかけるのかという予算面など、個々の状況に照らし合わせた上で費用対効果を考えて、「この場合はこの工事が出来ますよ、この工事が有効です」というようにご提案していきます。住宅の条件が同じでも、予算の条件が違えば当然工事内容は変わってきます。そのようなことから、一般的な耐震補強というと、お答えするのは少し難しいかなと思います。
安易にいわれている耐震補強工事の代表的な例は「屋根の葺き替えをやりませんか。屋根が重たいから軽くしましょう」というセールスによる屋根の葺き替え工事です。屋根の葺き替えをしなくても良いような住宅の屋根を、重たいからという理由だけで施工したケースがたくさんあります。しかし工事前と工事後の、実際の重量を計算したら、大して軽くなっていなかったという例もありました。
以前、当社にご相談に来られたケースでは、息子さんが当社のショールームにお見えになったのですが、高齢のご両親が訪問販売業者の応対をしているうちに屋根の葺き替え工事を即契約をしてしまったということでした。息子さんは、契約前に相談してほしかった様でしたが、地震に対する恐怖心は特に高齢の方は大きいという傾向があります。そういった心理もあり、即契約ということにつながっているようです。こういったケースを聞く度に、メディアも「耐震」というテーマを扱うことについては、特に伝え方を慎重に考えないといけないのではないかなと思います。メディアが悪質な訪問販売を応援しているようなことになりかねません。
他には、屋根裏に上がって補強金物を入れる、床下にもぐって基礎に補強金物を入れるという耐震補強が一般的に多く施工されていますが、その入れ方を間違えていたりとかいうのが結構多いです。それに加えて値段的にちょっと法外な値段であることが気にかかります。
しかし、これは契約自由の原則がありますから、法外な値段をとっているからといって、即、犯罪に繋がるわけではないんですね。値段の高い安いで文句は言えないという法律がありますので、そのへんが業者としては一番ラクにお金をとりやすいと考えているのではないでしょうか。
災害後や特集番組が放送された後、業者が熱心に営業に回ると、実は我々のところに消費者の方から相談の電話がたくさんかかってきます。工事の契約をする前に電話をかけてくれればよいのですが、よくよく聞いてみると工事の契約をしてしまったが、若干の不安が出てきたということで、「どうしよう、どこかに相談しよう」とかけてこられる様ですね。
できれば契約を交わす前に一度、どなたか周りの方に相談でもすればよいのですが、たいていの業者は危機感を煽り契約を急がせる手法をとりますので、相談せずに契約してしまい、契約してよかったのかなと後になり不安に感じられるようです。
仮に周りに相談したとしても、「耐震の為には屋根は軽くした方がいい」というような事が一般的な知識として出回っていますので、そういった訪問販売業者などで工事の契約をすることに対して「やめた方がいい」「よく考えたほうがいい」といってくれる方がなかなかいないという現状があります。
また、お役所なども、耐震や建築物についての質問を市民から受けた時に、個別にしっかりと検証することなく、当たり障りのない一般論で対応して安易に工事を勧めているため、葺き替えの必要が全くないのに、「役所も屋根を軽くした方がいいといっているから、工事しておこうかな」と判断されたケースも少なくありません。
しかし、僕らは実際に耐震補強をしたお宅を見せていただくことが多いのですが、耐震補強金具の付け方も知らない、付け方を間違えている、または何をやったのか見当もつかないというような工事が、実は半数以上、7〜8割あるのです。その中には、事前に市役所に相談したので安心して施工したという方もいます。
久長アナ:そんなにあるのですね。そういった中で、我々が耐震補強をするときに、まず気を付けなければいけないポイントは、どんなところでしょうか?
業者選び、これに尽きると思います。 急を要するような被害にあった時こそ、きちんとした会社に見てもらう事をおすすめします。耐震に限らず、家をあたる、屋根や壁をあたる業者は、まず実態のある会社かどうか。信頼できる業者かどうかをしっかりと見極めてほしいものです。
以前この番組の中で、失敗しないリフォーム業者の選び方というテーマでもお話したことがあります。目の前の営業マンが口がうまいかどうかで、大切なおうちを危険にさらすことのないように、一般の方もある程度の基礎知識をつけて上手に業者を選ぶ必要があるかと思います。災害後でなくとも、「キャンペーン中だから、この期間だけ、5棟のお宅までモニター価格で施工できる」などといって契約を急がせるような業者にもし出会ったら、「ちょっとあやしいな」と思ってよいです。
例えば、専門の業者といっても本当にきちんと施工できる業者かというのは、会社の大きい小さいという規模とはあまり関係ないと僕は思っています。本当に誠実な仕事をしているかということ。素人の考えでもよいから説明を聞いたときに本当に納得のいく説明をしてくれるかどうかを真剣に考えてほしいと思います。よくわからないけどプロが言っているからおまかせしようとか、ご自分で理解できなかった時に「素人が聞いても分からないから」ではなくて、粘ってください。決して安くないお金と、ご自分の住宅(財産)がかかっていることですから。分からなければ何回も何回も納得いくまで質問をする根気が必要かと思います。
耐震補強は、建築工事の中でもとくに、仕上がりが目に見えにくい分野です。ですから尚更、実態のないあやしい会社や、名ばかりの建築会社を名乗っている程度の会社が、手をだしやすい分野でもあるといえます。大きな地震の後は、あやしい会社でも、簡単に契約がとれてしまうのです。恐怖や不安があると、人は判断を間違ってしまうものです。日常の中では、高額な工事をするときは、もう少し落ち着いて考えるものです。2社、3社に相見積もりを取って比較するとか、この会社はどんな会社か調べてみようとか、誰かに相談してみようなど、多少の時間をかけます。しかし、緊急事態となると、そういった通常するべきことをすっ飛ばしてしまいがちです。これは平常時でも言えることですが、飛び込みで営業マンが工事をすすめてくるような業者は、さけたほうが無難です。
久長アナ:そうなってくると、我々素人は、災害の後こそ落ち着いて考えて、まず納得するまでいろいろな疑問点をその専門の方達に質問して、納得してから工事に入るというのが一番良いかもしれませんね。
そうですね。これもいつも言うことですが、専門家を専門家と思わずに、対等の立場で、ご自分が納得されるまで聞く。少なくとも基礎学力というのは建築屋より一般の素人のお客様のほうが高いケースが多いので。ご自分が納得できないものは「説明がおかしいんだ」くらいの感覚で、納得できるまで質問し、同時に他の人にも聞いてみる。それが3社になろうが4社になろうが、そのうちまともな業者に当たるまでやるというくらいの気持ちで、根気よく業者選びをされると良いかと思います。
また、耐震工事に限らず、住宅のメンテナンスを依頼する場合は、やはり地元にきちんとした事務所がある会社が良いと思います。実際に働いている社員や社長の顔が見える会社を選ぶという事で、悪質な会社に遭うリスクはある程度は減らせるのではないかと考えています。
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