このご質問も、塗装を検討されているお客様からよくいただきます。10年程前は「吹き付けよりローラーで塗装する方が丁寧です。」というセールスをする訪問販売業者がよくいました。また最近増えてきたように感じますので、業界全体の質の低下を懸念しているところです。
住宅塗装の施工方法として、ローラー塗装と吹付塗装があります。結論から言うと「吹き付けよりローラーで塗装する方が丁寧です。」というのは全く真逆です。ローラーだと素人でも塗装ができる。しかし吹付塗装となるとかなり技術がいります。職人から言わせていただきますと吹き付けもできない職人は職人のうちに入りません。
ローラー塗装と吹付塗装にはどちらも長所と短所がありますが、はっきり申し上げると吹付塗装の方が高度で優れている塗装方法です。
ローラー塗装とは、カーペットの掃除をするコロコロがありますが、あのような形の道具を使い塗装します。コロコロするところがスポンジ状で、素材はウール、アクリル、ポリエステルなどがあり、塗料を吸わせて手作業で塗ります。
吹付塗装とは、機械で塗料を吹き付ける塗装方法で、機械を大きく分けると、空気の力で塗料を吹き付けるコンプレッサーという機械と、空気を使わず圧力だけで塗料を押し出して吹き付けるエアレスという機械の2種類があります。厚みをつけるときはコンプレッサーを使います。ほとんど固形に近いような塗料もあるのですが、そのような塗料もコンプレッサーであれば吹き付けることができます。エアレスのほうは粘度の低い塗料の時に使います。
吹付塗装は、吹き付け機械による塗装経験をそれなりに積んだ職人でないと施工はできません。しかしローラー塗装は手でコロコロと塗るだけですので塗装経験のない、または浅い職人でも施工が可能です。
DIYなどをする素人の方でも、施工が可能なのはローラー塗装です。もちろん、美しく仕上げるには熟練していないとできませんが。
たとえば塗装職人になろうと全くの素人が入社してきたら、その新入りに、吹付塗装の機械を握らせることはまずありません。とりあえず作業服を着せてローラーを持たせて目の前の壁からコロコロと塗っていれば、素人のお客様から見ると、それなりに職人風に見えます。
そこで、どうかすると入社一日目から「お前これ握って、塗れるところから塗っておけ」とローラーを持たせる業者もあります。それから吹付塗装を教えてもらえるまでに何年もかかったりするのですが、実は一般的な塗装業者は一社に一台ぐらいしか機械を持っていません。そんなに安いモノではありませんから。
その一台の機械を、誰かが使えるようになったら、なかなか他のみんなに教えるということをせずに、そのひとりが吹き付け担当ということで、独占することが多いのですね。後輩がはいってきたら、その後輩に教えてあげればよいのですが、20年30年その機械を握っていて離さない、決して後輩に触らせないという構図がこの業界には結構あります。
これを、先輩だけがやるのではなくて親方までがそういうことをやるケースが多いのです。職人を独立させないためにと。職人の育成という概念に、全く欠けているのですが。
その結果、塗装職人として長い事働いているのに、吹付塗装をしたことがない、一度もさせて貰えなかった、教えて貰えなかった、というローラーしか塗れない塗装職人が結構な数いるわけです。
また、吹付塗装をした事がないまま独立する塗装職人も沢山います。そういった塗装業者や全く技術のない訪問販売業者などが言い訳として「ローラー塗りは丁寧だ。ローラー塗りの方が厚みをつけられる」と言いはじめたのがそもそもの間違いの始まりです。
もともとは言い訳だったことが忘れられてしまい、そのうち多くの業者まで、そう思い込んでしまったようです。堂々とホームページにそう書いている業者もかなりいます。ネットで調べてみたところ、腰が抜けるほど驚きました。「ローラーは丁寧です。厚く塗装ができます。」と、塗装に携わる人間がきちんと考えたらそんな事はないとわかるはずなのですが、ほとんどの業者がそう書いていました。
唯一、千葉の業者が「なぜローラーの方が厚塗りが難しいのか。吹き付けの方が厚塗りできるのか、そして均一に塗装が仕上がるのか」ということを真剣に書いていましたが、正しい認識を持っている業者が圧倒的に少数派であることに、大変びっくりしました。これこそがこの業界の現状、問題であると、そろそろ消費者の方たちにも知っておいてほしいのです。
実際のところ、吹付塗装で厚みをつけることは容易にできますし、均一に塗膜をつけることができるので、圧倒的に吹付塗装のほうが優れています。塗料には粘度(粘り気)のあるものと無いものがありますが、吹付塗装では粘り気のある塗料を使います。粘り気があるので、液ダレすることがなく、しっかりとした厚みを均一につけやすいのです。機械は塗料の吐出量などを細かく調節できるので、厚みを選べる上にそれを均一に吹き付けることが出来るわけです。
そもそもローラー塗装では施工が不可能な塗料というのも、結構あります。また、ローラー塗装で粘り気のある塗料を使うと、手作業ですので作業性がとても悪くなり、均一に塗るのが難しくなります。 作業性を良くするために粘り気のない塗料を使うと、液ダレするので薄塗りしかできません。もちろん熟練した職人は、ローラー塗装の欠点をカバーすることができますが、経験の浅い職人や素人ではそうはいきません。ローラー塗装の長所は、施工が簡便で、仕上がりを気にしなければ誰でも手軽に塗れるということくらいでしょうか。
このようにそれぞれの特徴、得手不得手をひとつずつ検証していくと、一般的に「ローラー塗装は厚みをつけられる」というのは実は全く逆で、「吹付塗装は厚みをつけることができるが、ローラー塗装は厚みをつけにくい」ということがわかると思います。
住宅塗装の現場でローラー塗装が多く選ばれている理由のひとつは、吹付塗装の機械を扱える職人が少ない事に加えて、もうひとつ、施主から嫌がられやすいという点があります。それというのも、よく欠点として「まわりに塗料が飛び散る」と思われている方が多いためです。これも吹付塗装をすることのできない業者が吹き付けを使わない言い訳にしていたのと、扱う事ができない業者が無理して使って本当に飛び散らせてしまったという事があるのでしょう。小さな塗装業者同士では機械の貸し借りなども結構やっていますので、自分の機械が壊れたけどすぐには買い直せないなどという時に、融通し合うことがよくあります。よそから借りた使い慣れていない機械で失敗するのは、小さな業者によくあるケースです。
実際にはプロが吹付塗装をした場合飛び散ることはほとんどありません。ですが、一般の方にも「吹き付けは飛び散る」というイメージが浸透しています。飛び散りそう、と思ってしまうのですね。なぜなら、もうひとつの欠点として機械の音があります。その音を聞くと、実際は飛び散っていないのに、なんとなく塗料が飛んでくるように感じてしまい、過度に心配される方が多いのです。
住宅塗装の場合、近隣の住宅への配慮から、「塗料が飛び散るのではないか」と疑いがかけられやすく、更に騒音ととられるかも知れない音がでる吹付塗装を選択することが難しく、やむを得ずローラー塗装を選択せざるを得ないという事情があり、当社でも外壁塗装はローラー塗装で施工しています。使用するローラーの選択や塗り方、濃度の濃い塗料を選択するなど、工夫して厚みをもたせるように、熟練した職人が施工しています。
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▲ツインプラザ大分壱番館の全面改修と全面塗装を施工いたしました。 |
一例をあげると、以前ツインプラザという大きなマンションのタイル塗装を施工した事があります。半透明塗装というのは吹き付けでないと均一に仕上げることは難しい塗装です。
しかし高層マンションである事や養生のしにくさ、また近隣住民の過度な不安感などによりローラー塗装をせざるを得ず、熟練した職人が施工したという事がありました。ローラーで半透明塗装を美しく仕上げられる熟練した職人は少ないので、限られた数名の職人で施工しました。その際使用した塗料のメーカーである日本ペイントが、心配して見に来ました。「半透明塗装を、ローラーでするのですか?」と。それくらい、タイル塗装は吹き付けでないと大変難しいのです。
ただ、当社ではスレート屋根の塗装の場合は、絶対にローラーでは塗装しません。勾配の小さいスレート屋根の場合、ローラーで塗装すると塗料の目詰まりが起きやすく、雨漏りのリスクが大変上がります。スレート屋根はもともと屋根材同士の隙間が狭いのですが、その隙間を塗料が塞いでしまい、毛管現象が起き、屋根の裏側に水が入り込んでしまいます。大したことのない小雨でも、傾斜とは逆の方向に水が入っていくのです。屋根の塗装をした後に雨漏りが始まったというご相談のケースの殆どが、スレート屋根にローラーで塗装していたというケースです。吹付塗装であればこのような事はまず起こりません。(スレート屋根については第66〜67回の放送で詳しく述べています)
ご質問にあったように「ローラー塗装は厚みをつけられて丁寧な塗装方法である」というセールストークが、大きな間違いであることはお分かりいただけたでしょうか。
正直な業者であれば、「うちは吹き付け塗装ではなく、ローラーで塗装するけど、丁寧にやります」というならまだ理解できます。
「ローラーだけど丁寧に塗装する」というのと、「ローラーだから丁寧な塗装です」というのは事実が全く違ってきます。
いい加減で不誠実な業者が多い業界ではありますが、単に無知な為に間違った認識を思い込んでいるというケースも増えてきています。良心的で正直でまともな業者が育つには、消費者の方達の力が必要不可欠です。 |